rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

1月7日 金正恩が順川リン肥料工場建設現場を現地指導

 

 金正恩の今年初めての現地指導に関する報道(指導の日付は報じず)である。

 金正恩は、昨年もあちこちの建設現場を現地指導し、その成果を実績としてアピールしたが、今年は、この工場の完成を「目玉」とする予定なのだろうか。建設現場の写真をみると、建物などは相当できあがっているようなので、10月10日の党創建75周年記念日ころまでに完成できれば、格好のアピール材料となるであろう。

 同建設現場における金正恩の指導内容とされる事柄からは、北朝鮮の経済部門の方向性がうかがえるので、以下、報道順に紹介したい。

 第一は、やはり「自力更生」である。同工場の建設が「徹頭徹尾、自らの力と技術、労力に基づいて解決していることは、党の正面突破思想と意図に徹底して符合する良い試図」と称賛している。ここで「自らの力」というのは、外国に対する意味よりも、むしろ、中央当局に対する意味合いが濃いように見える。以前にも指摘したが、「自力更生」には、そのような内外双方に対する意味が込められているのであろう。

 第二は、高度技術の重視である。「すべての要素と工程を自動化し、徹底して労力節約型工業として打ち立てる」ことを目指すよう指示するとともに、「自動操縦系統の信頼性と生産工程の安全性を担保」「工場の技術労力をしっかりと組織し、技術技能水準が高い生産者を育てる」ことなどを強調した。

 第三は、原料の安定供給確保である。「この工場の生産を正常化しようとするなら原料を円満に保障することが一番重要な問題」として、「党の批准方針のとおり、リン化石鉱山を至急に還元復旧する」ための措置をとるよう指示した。これまでは、原料確保のあてのないままに工場建設が進められてきたということであろうか。ちなみに、「党の批准方針」というのは、金正恩の裁可を経た決定という意味であろう。北朝鮮内部では広く使われているようだが(すべての物事は、それに基いて、あるいはそれがあってはじめて動くのであるから当然であるが)、報道において用いられるのは珍しいように思う(単に管見の故かもしれないが)。

 第四は、環境保護への配慮である。「工場建設と運営過程に周辺生態環境に影響を及ぼし得る問題を科学的に確かめ、科学的に解決対策を行うことについて強調」したとされる。

 第五は、党中央の支援による工事の促進である。「対象工事に提起される資金保障問題を党において至急に対策することとし、この事業を党的に頑強に後押しするから、内閣と化学工業省、採取工業省が主人らしい姿勢と観点を正しく持って力強く推進」するようにと指示した。このような表現からは、党の財政支援及びその権威を用いたバックアップがあって、はじめて内閣や担当の省においても、全力を発揮できるという状況がうかがえる。そうであれば、金正恩の現地指導を受けた単位は、党の支援を受けることができるようになり、結果、当該単位のその後の事業が円滑に進むというのは、十分あり得ることであろう。そういう意味では、金正恩の現地指導は、訪問先単位にとって、非常にありがたいことなのかもしれない。なお、このような指示は、第一の「自力更生」称賛と矛盾するようにも見えるが、「自力更生」を基本ないし前提としつつ、政策的に重要な部分に対しては、党中央の支持を与えるということであろう。「自力更生」の姿勢がうかがえなければ、支援もしてもらえないのではないだろうか。

 最後は、対外的緊張をテコとした執務姿勢改善の訴えである。「敵対勢力が逆風を吹かせてくればくるほど、我々の赤旗はしおれることなく、より一層強くたなびく」とした上で、続けて「いかに情勢が厳酷で行く道が難関に塞がれていても、我が偉業の正当性を信念として堅持し、自分の力を信じ不断に高い責任性と献身性、積極性を発揮していけば、我々の理想と抱負は必ず我々の手で実現できる」と述べ、奮起を促している。このようなロジックについては、本ブログで既に指摘のとおりである。