rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2月26日 社説「すべての部門、すべての単位において最大限増産し、節約しよう」

 

 標記社説は、見てのとおり「増産・節約」を訴えるものだが、その背景となっている現状については、いろいろ検討の余地がある。

 冒頭では、現状認識として、例のごとく「敵対勢力どもの策動が一層悪辣になっている今日」の状況を挙げ、そのような状況において「自力更生の原則で生産を活性化し、我々の生活をより潤沢にするための重要な方途は、増産節約運動を活発に展開すること」と主張し、「今こそ、人民経済のすべての部門、すべての単位においてすべてのものを極力節約し、より多く生産し、すべての人民が熱烈な愛国心を発揮しなければならない」と訴えている。

 社説は、その上で、増産節約運動を進める上での課題を次のとおり提起する。

 第一は、「誰でもが国の生計に主人としての確固たる観点と立場を持つ」ことである。これが何を意味するかを示すのが、「勤労者たちが国の生計を主人らしく、きちんと行えば、国を富強にし、自分たちの生活を向上させることができるが、他人事のようにみなして、成り行き次第に行えば、経済大国を打ち立てることはできず、自分たちも良い生活を送ることができない」との主張であり、要するに、勤労者がそれぞれの仕事の結果を自分の利害と直結したものととらえて真面目に取り組むべきということである。そうした主張の背景には「仕事をぞんざいに、粗末に行って労力と資材、資金を浪費する現象、国の財産を自分の家の物のようにそっくり流用し処分する現象」があり、それとの「強い闘争を展開」する必要があるのであろう。とりわけ、「流用」に及んでは、「増産節約」以前の問題といわざるをえない。

 第二は、「自体の実情に合わせ、予備を探し出す」ことである。「増産節約の予備はどこにでもある。機関・企業所では死蔵されている原料、資材、設備をみな探し出して最大限、効果的に利用しなければならない」と主張する。実際は、「死蔵」というよりも将来に備えて「隠匿」しているのかもしれないが、いずれにせよ、現場にはなお余力が残されているとの現状認識がうかがえる。

 第三は、「技術革新運動」である。とりわけ、「技術改造の主たる目標を電力消費を減らすことに置き、設備を電気節約型に」改造することを求めている。同時に、「質向上を優先視し、量と速度よりも質を先行させる気風」を求め、「生産と建設において突撃式、数字合わせ、日にち合わせのような偏向が絶対の現れないようにしなかればならない」と戒めている。後者の主張は、従前の「増産節約運動」が「速度戦」などのスローガンを掲げて、量・速度を重視していたのとは極めて対照的である。

 第四は、リサイクルである。すなわち「遊休資材収買をはじめとした回収、再生事業を積極的に奨励し、再資源化が経済発展の重要な動力となるよう」にすることである。具体的には「今、工場、企業所、建設場はもちろん、公共施設、家庭に至るまで、どこにでもくず鉄、古紙、古ガラス、古ゴム、古樹脂のような再生可能な廃棄物がある」ので、それらを回収・再生利用する体系を構築することを訴えている。

 第五は、「幹部が経済組織事業を緻密に行っていくこと」である。例えば、「経済指導幹部は、現情勢と革命発展の要求に合わせ、自分の部門、自分の単位の発展戦略、経営戦略を科学的に立て・・・設計段階から最小支出・最大実利を保障」すること、また各現場幹部は「労力と設備、資材の利用状況と生産工程を常に確認し、適時的な対策」を立て、「浪費現象と強く闘争」することなどである。これらの主張については、生産性向上に向けた取組みというよりは、本来、経営陣が行うべき取り組みをしっかりと行うことを求めたものとの印象がある。

 

 この社説に関する韓国・聯合通信の解説記事は、コロナウイルス感染症防疫のための国境閉鎖どの影響によって物資等のひっ迫が更に加速していることなどを背景にしたものとの見方を示している。確かに、リサイクルに関する部分などからは、物資不足に苦しむ状況がうかがえる。

 しかし、それが本社説の出された最大の要因かというと、違和感を覚える。リサイクルの強調は、決して昨日今日のものではないし、いずれにせよ4番目に掲げられた項目である。背景には、より慢性的な問題があると考えるべきであろう。第一の「主人らしさ」の訴えをはじめとする上述の主張からは、北朝鮮生産現場の操業・管理・運営などが下は勤労者から上は経営幹部に至る当事者の散漫・放逸的な姿勢・行動によって、本来の能力さえ発揮できていない(ないし、発揮していない)との現状がうかがえる。少なくとも、この社説の筆者(すなわち北朝鮮指導部)の認識は、そのようなものであろう。冒頭の「敵対勢力どもの策動」は、人々の覚醒を促すための名目として掲げられているに過ぎないといえる。

 結局のところ、「増産・節約」と銘打っているが、実際のところ求めているのは、生産の正常化、まともな取組みという次元のものなのかもしれない。