rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

3月18日 金正恩平壌総合病院の着工式に出席

 

 金正恩が3月17日に行われた標記着工式に出席し、演説を行ったほか、初スコップを握り、発破スイッチを押したことを報道。演説全文も別途掲載した。金正恩の演説全文が公開されるのは久々である。

 先に、着工式の状況を添付の写真から見ると、多数の一般参加者がマスク着用とは言え、密集して整列している。また、金正恩もマスク未着用の朴奉柱をはじめとする高官らに取り囲まれて談笑している。東海岸で実施された軍の訓練を指導した際、周囲の軍高官らが終始マスク着用であったのとは対照的である。これだけで断言するのは早計であるかもしれないが、北朝鮮指導部の認識としては、少なくとも平壌市内に関しては、コロナウイルス感染の峠は越したと見ているのではないだろうか。

 次に金正恩演説の紹介に移りたい。その柱は、同病院建設の経緯と意義及び建設推進に際しての留意点といえる。

 まず、同病院建設決定の経緯については、昨年末の党中央委員会総会において、人民保健部門の充実が討議された際、首都にさえ総合病院が存在しないことが指摘され、「久しく構想され宿願となっていた現代的な総合病院建設」が決定されたという。以来、党において「今年に計画されていた多くの建設事業を後回しにし」て、「労働党創立75周年を迎えて完工させるべき重要対象」として敷地選定・設計・建設力量編制・資材保障などの準備などを進め、同日の着工式に至ったという。そして、建設は「私(金正恩)が一番信頼する建設部隊である近衛英雄旅団と8建設局」に任せることとし、その激励のため、「本来計画にはなかったが、・・・この席に参加」したと述べて期待を示した。

 同病院建設の意義としては、それが人民生活の向上に資するという点で「人民大衆第一主義」を具現するものであることを強調すると同時に、様々な困難を抱えながら短期日でそれを完工させるということ自体に大きな意味を付与している。すなわち、「病院建設過程で創造される決死貫徹の精神、建設速度が社会主義建設のすべての部門に波及されるようにするのが党の基本意図」であることを明らかにしている。

 建設施工上の留意点としては、そうした意義を有する同病院建設のために「忠誠の突撃戦、熾烈な徹夜戦、果敢な電撃戦」を展開することを訴えつつも、「早くしなければならないといって施工の質を低めたり、質を高めるためといって速度を緩めたりする」ことを戒めている。とりわけ念を押して強調しているのが質の担保であり、施工ミスによるやり直し工事の弊害などを指摘した上で、「再度改めて強調するが、建設において質を高めることは、すべての建設者の最も重く神聖な義務です」と述べている。加えて「建設資材と設備の先行保証こそが建設速度の加速化です」と述べて、とりわけセメント及び鋼材の確保などに向け、内閣及び関連産業部門の協力強化などを指示している。

 最後に、同病院建設が「敵対勢力どもの汚い制裁と封鎖を笑いで粉砕」することになるとして、献身を訴えている。

 以上の演説内容からは、金正恩が同病院建設を党創建75周年の今年の新たな目玉として、自らの直接指導の下で建設を推進し、「人民大衆第一主義」路線の成果としてアピールしようとしていることが浮かび上がってくる。ここまでは、概ね既定路線の延長線上の動きと見いえるが、かねて「制裁」の厳しさ強調している中で、敢えて新たな巨大目標を設定する大胆さにはやはり驚かざるを得ない。同時に個人的に注目するのは、「質の確保」の強調である。一国の最高指導者が着工式でここまでそれを指摘する国があるだろうか。そこに北朝鮮の記念碑的大建造物の抱える問題が改めてうかがわれる。