rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

4月13日 最高人民会議第14期第3次会議を開催

 

 標記会議が12日、万寿台議事堂において開催されたことが報じられた。

 当初予定されていた10日から2日遅れ、党中央委政治局会議の翌日の開催となった。開催日遅延の理由は説明されていない。

 金正恩は出席しなかったが、これは異例ではなく、むしろ今期からは最高人民会議代議員でなくなったので、予定の行動というべきであろう。

 会議の議題は6件とされたが、大別すると三つで、第一が3件の法律の制定、第二が昨年度国家予算決算と今年度予算、第三が組織問題(国家機関人事)であった。

 第一の法律関係では、①「再資源化法」、②「遠隔教育法」、③「除隊軍官生活条件保障法」が制定された。①については、「自体の力と技術、資源で経済の持続的発展を保障」するためのものと説明された。いわゆるリサイクル関連法であろう。最近の報道でも、地域・企業などでの模範的リサイクル活動がしきりに紹介・推奨されており、それを法制化したものであろう。②は、「科学の母である教育の発展をより推進」するためのものとされており、ネットの活用による高度の科学技術教育の普及などを目指すものと考えられる。③は、「全社会に軍事重視気風を確立するため」とされる。軍に対する配慮を示したものとして注目される。あるいは、今後、老齢軍人などを中心に肥大化した人民軍の兵力削減を行う布石である可能性も考えられよう。

 第二の予算関係では、予算関連の報告のほか、内閣事業報告及び各部門から11人の「討論」が行われた。

 このうち、内閣事業(活動)報告では、昨年度の具体的な実績が示されたものとしては、年間工業総生産額が計画を108%、電力生産が計画を103%超過達成し、石炭生産が前年比で123%増加、鉄道運輸部門の貨物輸送量が計画を105%、農業部門で穀物生産が最高収穫年度水準を突破、などがあり、その他各部門の成果が列挙された。一方、「深刻な欠陥が現れた」として、「経済指導幹部が主人としての役割を正しく果たせないと党が提示した経済建設目標を成果的に占領できないという深刻な教訓」を得たとしているが、それ以上の具体的な言及はなされていない。

 今後の活動方針としては、冒頭に「経済事業体系と秩序を合理的に整頓し、国家の経済組織者的役割を強化」するとして、①資源、資金の掌握強化、②計画機能を強化し、主要生産目標と経済技術的指標を再確定、③地下資源の開発利用関する規律厳格化及び水産資源の保護増殖対策を強化、④輸出入活動の規律・秩序を厳格化などへの取り組み姿勢を示した。

 続けて、「平壌総合病院建設をはじめとする国家的な主要建設対象」及び「金策製鉄連合企業所と黄海製鉄連合企業所酸素分離機設置工事をはじめとした主要対象工事」の期限内完工への尽力を強調した上で、金属工業、化学工業、電力工業、石炭工業、鉄道運輸、軽工業、機械工業の順で各部門の目標を列挙した。

 その後、科学技術関係で、「(その)発展に対する統一的指導と戦略的集中性を保障」するなどの方針を、また保健部門への取組みに関し、新型コロナウイルス防疫の強化などの方針を示している。

 予算関係では、2019年予算の決算として、「多くの工場、企業所が国家予算納付計画を超過遂行した」ことなどから、収入が対前年(2018)度比で105.3%に増加したとしている。

 2020年度予算については、収入を対前年度比104.2%とし、その内訳として「予算収入の基本項目である取引収入金は101.1%、国家企業利益金は101.2%とし、(それら収入が)収入総額の83.2%を占める」こと、「今年からは国家投資固定財産減価償却金を国家予算に動員し利用」することを明らかにした。

 一方、各部門の支出は次のとおりとされた(カッコ内は昨年度予算における比率)。

  • 経済建設部門:総額の47.8%(人民経済47.7%)・対前年比106.2%。ただし「人民経済部門」は107.2%とされた。「経済建設部門」と「人民経済部門」の違いは不詳。
  • 科学技術部門:比率未発表、対前年比109.5%(昨年は対前年比108.7%))
  • 国防費:総額の15.9%(15.8%)
  • 社会主義文化部門(教育・保健・体育・文化芸術):比率未発表(36.3%))内訳:教育部門:対前年比105.1%、保健部門:対前年比107.4%、文学芸術部門:対前年比105.8%、体育部門:対前年比104.3%

 各分野の支出は、全体の増加率(4.2%)を勘案するなら、科学技術部門が昨年に続けて伸長しているのを除くと、総じて大きな変化なく配分されているようにみえる。

 第三の組織問題では、まず、国務委員会委員5人が召喚(解任)され、同じく5人、李炳哲(党軍需工業部長)、金衡俊(党副委員長・国際部長)、金正官(人民武力部長)、李善権(外相)、金正浩(人民保安相)が補選された。いずれもこれまでに外交・安保部門の各機関責任者に任命された人物であり、順当な人事といえよう。

 このほか、内閣で副総理1人と資源開発相、機械工業相、軽工業相が新任され、最高人民会議の部門委員会(法制、予算、外交)委員長がいずれも交代した。

 以上が報道の概要であるが、総じて既存路線の延長線上の決定であり、驚くような内容は認められなかった。

 個人的には、同会議に関する注目点は2点あった。第一は、前日の政治局会議で、コロナ騒動のあおりで経済建設目標がいわば「下方修正」されたことが、具体的にどのように反映されるか。第二は、昨年の中央委会議以来の主張である「内閣機能の強化」をいかに具現するか(制度的な措置がとられるか)であった。

 第一に関しては、公表された限りでは、さほどの「下方修正」は認められない。国家予算の成長率で見ても、2019年度に対前年比5.3%増であったのが、2020年度は、対前年比4.2%増であるから、成長率がマイナス1.1ポイントということになる。これは、国際的なコロナ禍の影響に比すれば軽微なものといえよう。これには、北朝鮮経済が本来、制裁等の影響もあって対外依存度が非常に低かったことが結果的に幸いしているとの側面もあろう。

 しかし、そこには一つトリックがあるようにも見える。本年度から「国家投資固定財産減価償却金を国家予算に動員し利用」するとの措置である。その詳細は不明だが、従前、個別の部門ないし企業所などに留保されていた当該資金が内閣の手元にいわば「召し上げられる」ことになり、それで本来の収入の低下を補っているのではないだろうか。

 第二に関しては、前述のとおり内閣事業報告の活動方針において、取り組みの姿勢は示されているが、制度的な措置が決められたわけではなく、足踏みの印象も受ける。ただ、前述の「固定財産減価償却金」の「召し上げ」は、内閣の「資金力」強化ともいえるので、あるいは、それが第一歩なのかもしれない。

 ちなみに、その規模であるが、予算収入の8割以上を占める企業からの納付金が1%そこそこの増加(その他の収入は更に低い伸び率)であるにもかかわらず、収入全体が4.2%増加となっていることから単純に計算すると、予算全体の3%以上に相当する金額と考えられる。これは、相当の規模であり、これだけの資金の管理権を移譲する裏には、それなりの確執・綱引きもあったのではないだろうか。この制度変更が今次会議の最大の特徴かもしれない。

 最後に、何故、開催が予定よりも遅れたのかが気になる。コロナの影響をいかに消化するかの策定に時間を要したのであろうか。