2021年12月9日 論説「社会主義の全面的発展に関する思想の正当性」
標記社説は、「社会の各部門と分野、国のすべての地域をみな一緒に発展させなければならないというのが今日の党の意図であり革命の要求である」とした上で、そうした「我が党が明らかにした社会主義の全面的発展に関する思想」の「正当性」について、3つの根拠をあげて論じたものである。
第1の根拠は、「集団主義を生命とする社会主義発展の合法則性に全的に符合する」ことである。これに関して、論説は、「我々式社会主義の優越性と威力は集団主義にある」ところ、「我が国においては、人々の間に同志的団結と協力が社会関係の基本をなしており、互いが熱く思いやり大切にする高尚な精神と美風が高く発揮されている」と主張する。それがなぜ「社会主義の全面的発展」の「合法則性」を示すのか必ずしも理解できないのだが、しいて言えば、そうした状況がそれを可能にする基盤となっているという趣旨であろうか。
第2の根拠は、「国の現実態に関する解剖学的な分析と正しい計算に基づいて・・社会主義の発展速度を非常に高めることのできるようにする」ことである。これを敷衍すると、「(北朝鮮では)今、各分野と部門、地域の発展水準と潜在力は様々である」が、「このような状態をそのままにしておいては、いつになっても全般的経済発展と人民生活向上における転換をもたらすことはできず、国家の復興発展も成し遂げられない」のであるから、「我々の前進を拘束する古い事業体系と不合理で非効率的な事業方式、障害物を断固として除去し、国家活動と社会生活全般を均衡的に、持続的に発展」させることが必要であるとの主張になる。これは、「正当性」の根拠というよりは、考え方の内容を敷衍したに過ぎないようにも思える。
第3の根拠は、「我が国家の戦略的地位を堅固に固め、我が人民が腰ひもを絞って闘争した甲斐と矜持を実生活において感じるようにし、我々の発展を妨げようとするあらゆる敵対勢力の発悪的策動を無効にできる」ことである。これに関しては、「苛酷な主客観的環境を忍耐し、社会主義と人民の運命を固く守ろうとするなら、すべての部門を社会主義守護の最前線として押し立て皆共に発展させなければならない」と主張している。この主張も趣旨不明であるが、どこかに弱点があれば、そこから突破されるという考え方が背後にあるのであろうか。
「全面的発展」路線については、これまでの本ブログで累次紹介してきた通り、このところ目標・意義などを盛んに論じてきたところであるが、ここにきて、改めてその「正当性」を主張するということ自体が、それについて社会的に懐疑が存在することを示唆しているようにも思える。また、上述の論理展開も全般的に説得的なものとは思えず、そのような路線がどの程度、共感・受容されるのか見極めていく必要があろう。