rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年5月19日 金正恩の「金属工業部門労働階級への恩情」を強調

 

 本日の「労働新聞」は、第1面を費やして、「労働階級の世の中に花咲く5・1節の新伝説」と題する記事を、「敬愛する総秘書同志が金属工業部門労働階級に施してくださった格別の恩情に関する話し」とのサブタイトルを付して掲載している。

 その骨子は、去る5月1日(「労働節」=メーデー)に際し平壌市内金日成競技場で実施された「金属工業部門労働者体育競技2023」(サッカー)の決勝戦金策製鉄連合企業所チーム対千里馬製鋼連合企業所チーム)終了後、金正恩が自ら電話をかけ、「(優勝を逸した)金策製鉄連合企業所選手達にも(優勝した)千里馬製鋼連合企業所選手達に与えるのとまったく同じ賞品を与えて帰らせなければなりません」という異例の指示を与え、こうした知らせを受けた金策製鉄連合企業所は、感激に沸き立ち、「敬愛する元帥様の信頼に鉄増産成果で必ずや報いよう」との決意を固めているというものである。

 同記事は、こうした「出来事」を踏まえて、「偉大な親の陽光のような温かい懐があり、忠誠と報恩の一片丹心により一層固められた我が人民の信念があって、この地の上に創造と繁栄の新歴史は限りなく繰り広げられるであろう」と結んでいる。

 同記事で「金属工業部門」が取り上げられているのは、このところ農業への総力集中が強調される中で、金属工業をはじめとする基幹産業部門へのテコ入れを図りたいとの狙いがあるのかもしれない。

 ただ、いずれにせよ、そこで強調されているのは、昨日の本ブログで紹介した「平南炭田の愛国炭鉱夫」を模範とするキャンペーンと同様、金正恩の人民に対する深い恩情とそれに対する人民の「報恩」の実践としての「増産」というロジックである。

 北朝鮮は、今、経済活性化の動力としては、こうした政治・思想的刺激に全面的に頼っているように思える(そのことは、必ずしも科学技術の重視を否定するものではない)。そうした状況下では、かつて見られたような市場経済的要素の活用による経済的刺激を利用する余地は極めて限られていると言わざるを得ないであろう。昨日も指摘したが、そうした政策が果たしてどれほどの効果を上げ得るのか、注視したい。